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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1305号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実の主張、証拠の提出、援用、認否は、

被控訴代理人において、

「控訴人の主張にかゝる昭和三四年二月二四日控訴人と被控訴人および訴外松原毅の代理人との間に成立した合意による本件土地原形復旧保証金返還金の内金八〇万円を被控訴人に支払うべき債務はその履行期の定めがなかつたところ、被控訴人自身昭和三四年一一月二四日から同年一二月二〇日の間数回に亘り、又その後翌年にも数回、控訴人に対し履行の催告をしたけれどもその履行がなかつたので、被控訴人の代理人である佐藤雄太郎弁護士が昭和三五年九月二八日を第一回とし、昭和三六年五月下旬迄の間三回に亘つて履行の催告をした上、右八〇万円の支払に関する契約解除の意思表示をしたから、控訴人は被控訴人に対し右保証金返還金全額の支払義務を免れない。」と述べた。

立証(省略)

控訴代理人において、

『民法施行法第五条第五号によれば同号所定の確定日付ある証書たるには「公署において私署証書に或る事項を記入し、之に日附を記載し」てあることを要するところ、通告書(乙第三号証)には控訴人横浜市の受付印が押捺されてあるだけであつて、右にいわゆる「或る事項」が記入されておらず、しかも右受付印を押捺したのは同市財政局文書課であつて、代表権ないし執行権限のある同市の市長又は収入役等ではなく、右受付印は単なる横浜市の文書受付の趣旨の域を出るものでなく、右通告書(乙第三号証)は右の「確定日附ある証書」ではない。』と述べた。

立証(省略)

(ただし、原判決書三枚目末行に「甲第一一号証」とあるのを「甲第一一号証の一および二」と訂正し、同五枚目うら末行から二行目の「一〇、」の次に「一一、」を加える)。

理由

訴外神奈川県更生保護会連盟会長代理桑島一英は、控訴人に対し金三五〇万円の土地原形復旧保証金返還請求の債権を有していたが、この債権を昭和三四年五月二七日付をもつて訴外森春二に譲渡し、同年八月一七日付文書をもつて控訴人にその旨通知し、右文書が同日控訴人に到着したことは当事者間に争いがなく、成立に争ない甲第一号証の記載、原審

証人森春二の証言ならびに原審および当審における被控訴本人尋問の各結果によれば、訴外森春二は控訴人に対する右債権を昭和三四年六月二日被控訴人に譲渡したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そして、訴外森春二が控訴人に対し昭和三四年八月一七日に文書をもつて、右債権を被控訴人に譲渡したことを通知し、同日控訴人がこれを受領して、これに被控訴人主張の受付印を押捺したこと、ならびに右債権に対し控訴人主張の債権差押および転付命令が発せられたことは当事者間に争がなく、成立に争いのない乙第四号証の記載、原審証人森春二、同浅野公昭の各証言によれば、右債権差押および転付命令は、右債権金三五〇万円全額に対してなされており、右正本は昭和三四年八月一八日に右各決定の第三債務者である控訴人ならびに債務者である訴外森春二にそれぞれ送達されていることが認められる。

控訴人に対する森春二からの右債権譲渡の通知が民法施行法第五条第五号所定の確定日付ある証書によつてなされたものであるかどうか、従つて右債権譲渡を以つて右債権差押および転付命令の債権者である訴外松原毅に、ひいては控訴人に対抗することができるかどうかの点について、

成立に争いのない乙第三号証(甲第二号証と同一の文書)、原審証人森春二、同浅野公昭の各証言、原審ならびに当審における被控訴本人尋問の各結果によれば、昭和三四年八月頃控訴人横浜市には財政局(局長物部)、その下に管財課(課長渡辺)さらに第一管財係(係長浅野公昭)があり、同月一七日被控訴人と訴外森春二は同道して控訴人の役所を訪問し、物部局長、渡辺課長ならびに浅野係長に面接し、その際通告書と題する文書(横浜市長半井清宛、乙第三号証)を提出したところ、浅野係長において、右文書は控訴人市部内の文書ではなく、部外から来た文書であるため、控訴人の文書処理規定に基づいて文書受付の担当課である文書課へ回付し、同課係員において該文書の表面右下部へ受付印を押捺したこと(右受付印を押捺したことについては当事者間に争いがない)、控訴人の右文書処理規程によると「訴訟関係の書類や債権譲渡関係の文書を受付ける場合には日付印のほかにその受付の時刻も記入する」ことになつているため、右文書課員は右日付印の下に「P・M4・25」とその受付時刻を記入して受付を了し、その文書の担当係である浅野係長にこれを回付したこと、右日付印は円形の中央に横に「昭34、8、17和」、上縁内側に沿い横浜市役所、そのすぐ下に「受付」、下縁内側に沿い「第639号」そのすぐ上に「財」とそれぞれ記されているいわゆる各官公署で使用している受付日時を表示した受付印であること、ならびに以上の外、何ら加筆されていないことが認められ、右認定を左右するに足る資料はない。

民法第四六七条第二項は「通知行為につき確定日附ある証書」を必要としており、債権譲渡の通知のあつたことを「確定日附」ある証書をもつて証明すべきことを規定したものではないと解されるし、また民法施行法第五条第五号には「官庁又は公署に於て私署証書に或事項を記入し、之に日附を記載したるときは、その日附を以て其証書の確定日附とす」と規定しており、私署証書に何ら加筆することなく単に受付の日時を表示する受付印の押捺ならびにその受付の時刻を記入したのみでは右文書は未だ同号所定の「確定日附ある証書」とはいえないと解するを相当とするところ、右認定事実によると、債権譲渡の内容を記した通告書と題する文書(乙第三号証)には控訴人市の受付月日を表示した受付印とその受付の時刻の記入が存するのみであるから、右文書は同条にいわゆる「確定日附ある証書」とは認められない。

以上のとおりであるから、被控訴人はその主張にかゝる債権譲渡につき前記債権差押及び転付命令の債権者たる訴外松原毅に、ひいては債務者たる控訴人に対抗できないと言わねばならないから、右対抗力あることを前提とする被控訴人の本訴請求は、爾余の判断をするまでもなく失当であつて、原判決が之を認容したのは不当であるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

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